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畜産環境研究開発事業 研究開発事業概要
これまで実施した研究開発関係事業

Ⅰ 畜産環境保全経営技術開発普及促進事業(平成7~14年度)

事業の目的

この事業では、家畜の生産過程で発生しうる環境問題を分析し、どの段階でどのような対策を講ずれば問題の発生が防げるかを明らかにするといった、食品分野で実施されたHACCP(危害分析重要管理点)の概念に基づく新たな環境保全技術体系の開発を目指して、以下の研究課題に取り組んだ。

事業の内容と成果

  1. 悪臭防止技術の開発

    臭気発生機構の解明として、豚における低タンパク飼料給与により窒素排せつ量の低減効果が図れるが、さらにリンゴジュース粕等の繊維質飼料を添加することにより、尿中窒素排せつ量をいちじるしく低減させる効果があることを明らかにするとともに豚舎内アンモニア揮散量を低減させること明らかにした。

    悪臭軽減効果判定手法の開発として、豚ふん尿混合物から揮散するアンモニアの簡易なin vitro測定法を開発した。

  2. 高濃度畜舎汚水の低コスト処理・利用技術の開発

    豚舎排水高度浄化処理技術の開発として、豚舎ふん尿混合汚水を希釈しないでスクリュープレス脱水機で処理後に間欠曝気式膜分離活性汚泥法で効率よくBOD、SS及び窒素除去できることを明らかにした。

    高濃度汚水の好気性浄化処理技術開発として、メタン消化液を液肥利用できない場合に、メタン発酵層を間欠攪拌することにより発酵槽内の汚泥濃度を高め有機物分解率を通常より約35%以上高めることが可能になり、上澄み消化液を凝集剤なして浄化処理ができることを明らかにした。さらに、メタン消化液の浄化法として、コークスやカキ殻を接触材とし、炭素源に廃食油等、色度除去に鶏ふん活性炭等を用いたカラム浄化法により簡易低コスト処理技術を開発した。また、メタン消化液中の窒素とリンの除去・回収技術として、ユーグレナの光合成機能を利用した培養技術の可能性について検討し、アンモニア濃度が30%、リン酸濃度を85%減少させることができることを明らかにした。培養条件の改善と人工光源による装置が開発できれば、資源化の可能性のあることが明らかになった。

    微生物相による畜舎汚水浄化機能の簡易評価法の開発として、農家にメスシリンダー、透視度計、簡便な顕微鏡を整備して、顕微鏡下の観察結果を、インターネットの質問に照合することにより状態診断が可能になる簡易管理システムを開発した。

  3. 堆きゅう肥の品質向上技術の開発

    微生物の呼吸作用を指標とする堆肥の腐熟度判定技術として、堆肥中に易分解性有機物が存在すれば微生物の分解による酸素消費が生ずることを利用して、酸素消費量から易分解性有機物の残存量を推定し堆肥の熟度を判定できることを明らかにし、小型の堆肥熟度判定器を開発した(商品名「コンポテスター」として製品化し市販されている)。

  4. 環境保全技術体系の開発

    家畜ふん尿等の低コスト処理技術の体系化において、牛ふん堆肥を水分調整材として戻し堆肥に利用する場合には、堆肥のみを循環利用すると容積重が高まり通気性が悪くなることから、3回が限度であり、オガクズ等の副資材を50%併用することにより良好な堆肥ができることを明らかにした。

    鶏ふん焼却灰の飼料利用の実証試験として、鶏ふん焼却灰を無機リンの代わりに給与した結果、ヒナおよびブロイラーの発育に差は認められず、産卵鶏においてはカルシウム源の添加を行って試験した結果、産卵率に差は認められず、リン源として循環利用できることを明らかにした。

Ⅱ 簡易低コスト家畜排せつ物処理施設開発普及促進事業(平成12~16年度)

事業の目的

平成11年に制定された「家畜排せつ物法」において、野積み、素掘り等の不適切な家畜排せつ物の管理の解消及び有効利用の促進に的確に対応するために以下の取り組みを行った。

事業の内容と成果

  1. 簡易低コスト処理施設開発・実証

    農家のニーズに対応しつつ、地域の特性を踏まえた簡易で低コストな処理施設の開発、実証として、24地域の試験研究機関等に34の開発実証施設を設置し、現地試験を実施し、これらの施設について専門家により、「普及に移せる施設」、「普及の可能性のある施設」、「今後の技術開発の参考となる施設」に評価・分類された。

  2. 効率的処理技術等情報システムの整備

    家畜排せつ物処理、利用の効率的処理技術について都道府県や畜産環境アドバイザーの協力のもとに122事例を選定し、インターネットの畜産環境技術研究所のホームページで、地域、畜種別、処理方法別に検索できるシステムを開発した。

  3. 堆きゅう肥の品質実態調査

    全国の堆肥センター等で生産される堆肥について、41都道府県、835ヶ所から延べ1502件の堆肥を収集し、データの地域、畜種、処理方法、副資材、季節等の基本情報及びその成分分析値についてデータベースを構築した。そのデータベースを利用して データ解析を行い、堆肥の標準的品質を明らかにした。

    この成果については、「堆肥の品質実態調査報告書(平17.3)」に記載されている。

    また、これらのデータベースは、現在、畜産環境技術研究所で実施している堆肥等成分分析依頼のデータ解析に活用されている。また、依頼分析の結果もデータベースのアップデートに供し、データベースの充実を図っている。

Ⅲ 畜産環境技術開発事業(平成15~18年度)

事業の目的

「家畜排せつ物法」の施行により、排せつ物の処理施設の整備が進展してきたが、堆肥の利用促進、臭気対策、汚水の高度処理についての技術開発及び情報提供を行うため、以下の取り組みを行った。

事業の内容と成果

  1. 家畜ふん尿処理施設機械の性能評価基準策定事業

    家畜ふん尿処理に係る施設・機械は処理方式や機械の性能も様々であることから、畜産農家等における選択を容易にするため、ふん尿処理施設・機械の性能や経済性等について専門家による評価を行い、その情報を当機構のホームページに掲載するとともに、冊子による「家畜ふん尿処理施設・機械ガイドブック(堆肥化処理施設編汚水処理編脱臭・焼却・炭化施設編)」として情報提供を行った。

  2. 畜産環境保全のための簡易測定法・判定法等開発事業

    堆肥の利用拡大を図るために、堆肥の成分分析値と塩酸抽出による無機態窒素から堆肥の肥料価値を簡易に推定する方法を開発した。この方法により、堆肥を施用する場合の化学肥料の節約量を考慮した施肥設計システムを開発し、「家畜ふん堆肥の肥効を取り入れた堆肥成分表と利用法」として情報提供を行った。

    畜舎や堆肥などの畜産関連の複合臭気について、におい識別装置で測定された臭気指数と簡易臭気センサの測定値をもとに関係式を導き、その関係式を組み込んだ携帯型簡易臭気センサを開発した(商品名「畜研式ニオイセンサ」として製品化され市販されている)。

  3. 環境保全新技術開発事業

    メタン発酵処理後の残渣は消化液と呼ばれ、液肥として利用できるが、利用できない場合は浄化処理されている。この消化液に高濃度に含まれているアンモニアを利用して、緑藻類ユーグレナを効率的に培養し、家畜の飼料資源として回収・利用する方法を開発した。

    畜舎汚水処理水に残っている窒素と色を同時に除去する方法として、硫黄と石灰混合材を基材とした硫黄酸化細菌を利用する方法について、養豚農家で実証試験を実施し有効であることを実証した。

    汚水処理における窒素負荷低減を図るため、養豚飼料のアミノ酸を調整した低タンパク質飼料にさらに10%繊維質飼料を添加することにより、発育・肉質を損なわず排せつ窒素のうち尿中窒素が著しく低減し、ふん中に移行することを明らかにした。これにより、活性汚泥処理のコスト低減やメタン発酵の効率を高めることが期待できる。

  4. 家畜ふん尿処理サポートシステム等の開発事業

    現場における具体的な技術サポート情報として、畜産環境技術研究所HP上にQ&A方式の「畜産農家のための堆肥生産サポートシステム」、「畜産農家のための汚水処理サポートシステム」を作成・公開した。 農家や現場の技術者が創意工夫した技術の普及を図るため、専門家による調査・審査を行い、「畜産農家のための安くて便利な技術集(堆肥化処理編汚水処理編)」として取りまとめ、冊子として刊行するとともに、上記のサポートシステム内に取り込んだ。

Ⅳ 家畜排せつ物利活用方策評価検討システム構築事業(平成17~19年度)

事業の目的

「家畜排せつ物法」の施行により、処理施設の整備が進展するとともに、利用拡大のためのあるべき姿を地域単位等でデザインすることが求められてきた。これに対応するため、国や都道府県等の行政担当者が行う家畜排せつ物の利活用の計画策定を円滑に進めるための支援システム開発として、以下の取り組みを行った。

事業の内容と成果

  1. 家畜排せつ物利活用方策評価検討システム(LEIOMANUTEC)の概要

    システムは、次のサブシステム、①家畜排せつ物の需給バランス評価システム及び需給調整シナリオシステム、②シナリオの環境影響分析システム、③シナリオのコスト分析及び④総合評価システム、からなっている。

    分析対象の単位は、都道府県における農業行政及び技術普及が行われる地域ブロック単位とした。

    このシステムプログラムはCDとして、マニュアルは冊子として、都道府県関係者に配布された。

  2. システムの機能
    1)家畜排せつ物の需給バランス評価及び需給調整シナリオ

    単位地区内で発生する各種家畜排せつ物を処理方式を勘案した排せつ物の栄養素量と同一地区内の作物の種類・作付面積と作物施肥基準を勘案した堆肥受容量を踏まえた耕種側の受入れ可能量からバランスを解析・評価し、地域内のバランスを確認し、生ずる過不足について処理利用対策シナリオを策定する。

    2)家畜排せつ物処理利用計画(シナリオ)の環境影響評価

    現状の家畜排せつ物処理利用の各段階におけるガス発生量及びその需給調整対策シナリオに伴って発生するガス発生量を算出し、それらを換算した総合温室効果指数の高低を比較し、対策シナリオ選択の材料とする。

    3)家畜排せつ物処理利用計画(シナリオ)のコスト分析

    現状の処理システムのイニシアルコスト及びランニングコストを算出し、各対策シナリオのコストと合わせて評価する。

    4)対策シナリオの総合評価

    各対策シナリオの環境影響評価とコスト評価をXY軸とした座標で表示することにより、その対策シナリオの特性から、シナリオ選択に役立てる。

Ⅴ 家畜排せつ物利用促進等技術開発普及事業(平成19~21年度)

事業の目的

家畜排せつ物については、家畜排せつ物法の施行に伴いほぼ適正に処理されているものの、たい肥の利用拡大のための技術開発をはじめとする環境への負担軽減のための技術開発等が求められている。

そこで、たい肥の肥効特性を考慮した肥培管理に関する技術、排せつ物中の窒素含有量の低減技術、堆肥化の過程で発生する悪臭の原因となる物質の量を低減する技術等の開発に取り組んだ。

事業の内容と成果

  1. たい肥の利用拡大のための技術開発普及

    たい肥を連用した土壌中の可給態窒素の簡易推定法の開発を行い、土壌中の可給態養分量及びたい肥の肥効評価に基づいて化学肥料との調整施肥設計を行うシステムを開発し、その利用マニュアルとともに冊子で提供し、「堆肥と土壌養分分析に基づく調整施肥設計システム(ダウンロード版)」を畜産環境技術研究所のホームページで提供した。たい肥の土壌改良効果について、効果は畜種のみによらないこと、効果の程度を成分分析によって示せることを示し、実証試験の結果をまとめた実例集をホームページで提供した。

    また、たい肥化過程で大気中に揮散するアンモニアを回収し、電気酸化により硝酸アンモニウムとしてたい肥に固定する技術を実証した。

  2. 環境負荷低減技術の実証普及

    ふん尿中に含まれる窒素等を低減するため、肥育豚に対するアミノ酸含量調整飼料を給与する現地試験を実施し、汚水処理コストに関する効果を実証した。

  3. 畜産環境技術情報の提供事業

    環境負荷低減技術について、新しい技術や製品について検証して新技術・新製品情報としてパンフレットおよびホームページで提供した。また、畜産環境技術に関する文献情報データベースを構築し、インターネットを通じて提供した

Ⅵ 畜産環境緊急技術開発普及事業(平成20~22年度)

事業の目的

国民の環境問題への関心の高まりや、畜産経営の大規模化、混住化等畜産環境をめぐる情勢はますます厳しくなる中で、水質汚濁防止法における畜産から排出される硝酸性窒素暫定基準値の見直し、メタン発酵処理の残渣である消化液の処理・利用問題、家畜管理や排せつ物処理過程で発生する臭気に係る悪臭苦情問題等緊急に解決を図らなければならない課題がある。このため、以下の技術開発等に取り組んだ。

事業の内容と成果

  1. 畜産排水硝酸性窒素等低減対策

    畜産排水中の硝酸性窒素等についての実態調査に基づいて、畜産排水中硝酸性窒素低減のための汚水処理施設の管理技術マニュアルを冊子及びDVDで作成するとともに畜産環境技術研究所ホームページで提供した。また、畜舎排水処理施設の簡易かつ低コストな改修技術により、硝酸性窒素の低減を図る実証試験の結果をパンフレットとして配布およびホームページで提供した。

  2. メタン発酵残さ利用促進等技術開発

    メタン発酵施設での消化液利用実態の調査を行うとともに、消化液の食用米及び飼料イネ水田への施用技術の開発により、慣行栽培並みの収量・品質が得られることを実証した。また、乾燥たい肥の一部をたい肥乾燥処理の燃料とするとともに他分野への燃料として供給し、乾燥処理の余熱は温水利用でき農場レベルでの小規模かつ化石燃料を用いないたい肥乾燥処理利用技術を開発実証した。

    これらの技術マニュアルを冊子及びホームページで提供した。

  3. 悪臭苦情低減技術等開発

    畜産現場の臭気発生についての実態調査を行い、臭気発生の少ない畜舎構造や家畜管理技術等を解明し、畜産に起因する悪臭苦情の発生防止に効果的な事例解説集を冊子及びDVDで作成するとともにホームページで提供した。

Ⅶ 高肥料成分たい肥調製・利用技術開発普及事業(平成22~24年度)

事業の目的

たい肥の利用推進を図るためには、たい肥のもつ肥料価値の評価を適切に行い、化学肥料の代替機能を十分に発揮させることが重要である。これまで、たい肥の窒素肥料の価値評価についてはかなり進展してきたが、リン酸、カリの肥料価値については十分な検討がなされていない。一方、リン酸、カリの肥料原料は輸入に依存しており、近年輸入価格は上昇傾向にある。

事業の内容と成果

  1. たい肥のリン酸、カリの肥効を考慮した施肥設計システムの開発・普及

    たい肥中のリン酸及びカリの肥効率について、化学分析値等から推定する簡易評価法を開発し、その肥効率に基づいた施肥設計による作物栽培実証試験を行い、その有効性を検証した。これをもとに開発した「たい肥のリン酸、カリの肥効を考慮した施肥設計システム」をインターネット上に公開するとともに、その利用マニュアル「たい肥のリン酸、カリの肥効を考慮した施肥設計-考え方とシステムの操作手順-」を冊子で提供するとともに、インターネット上に公開した。

  2. 高肥料成分たい肥の調製及び成分安定貯蔵技術の開発・普及

    たい肥及び鶏ふん燃焼灰を資材として、通常のたい肥に比べてリン酸及びカリ含量が高く、化学肥料代替効果の高い高肥料成分ペレットたい肥の調製技術を開発するとともに高肥料成分ペレット堆肥の貯蔵条件と成分変動を明らかにした「高肥料成分ペレット堆肥の調製と安定貯蔵に関するマニュアル」を作成し、冊子で提供するとともにインターネット上に公開した。

Ⅷ 家畜排せつ物の低コストエネルギー・副産物利用技術開発普及事業(平成22~24年度)

事業の目的

家畜排せつ物の利用促進を図るひとつとして、家畜排せつ物のメタン発酵等によるエネルギー利用の推進が期待されている。メタン発酵処理については、副産物である消化液の利用拡大を推進し、消化液の処理コスト低減を図ることが必要である。消化液の利用にあたっては、野菜等への施用技術が未確立であること、運搬経費が高いこと等が課題となっている。他方、家畜排せつ物のエネルギー利用として、たい肥発酵熱の利用についても効率的な回収・利用技術が未確立である。

このため、メタン発酵消化液の野菜等に対する調製利用技術及びたい肥発酵熱の回収・利用技術の開発に取り組んだ。

事業の内容と成果

  1. メタン発酵処理システムの低コスト化を目指した消化液の調製・利用技術開発・普及

    メタン発酵処理施設で発生するメタン発酵消化液の濃縮技術並びに含まれるリン酸、カリ及びアンモニア等の肥料成分の液肥としての機能を高める調製技術を開発するとともに、消化液を利用した調製液肥の野菜等への施用効果を明らかにし、「メタン発酵消化液の濃縮・改質による野菜栽培利用マニュアル」にとりまとめ、冊子で配布するとともに畜産環境技術研究所のホームページで提供した。

  2. たい肥発酵熱の回収・利用技術の開発・普及

    吸引式堆肥発酵施設において、たい肥発酵熱をクロスパイル式熱交換器等により回収し、戻し堆肥を乾燥するシステムを開発して実証試験を実施し、副資材の消費量を30%程度低減できることを明らかにし、「堆肥発酵熱の回収・利用技術の実例集」にとりまとめ、冊子で配布するとともに畜産環境技術研究所のホームページで提供した。

Ⅸ 畜産排水中の硝酸性窒素低減技術開発普及事業(平成22~24年度)

事業の目的

水質汚濁防止法により、硝酸性窒素等については、健康項目として一律に排水基準100mg/㍑以下という値が平成13年に設定されたが、畜産分野については、飼養規模にかかわらず適用されることもあり、当初暫定値1,500㎎/㍑が、平成16年に900mg/㍑が適用され、その後2回の見直しでは、同値のまま延長されている。しかしながら、厳しい指摘もあり、畜産排水の水質改善を図ることは喫緊の課題となっている。畜産汚水処理施設は、BOD、SSの除去を目的に整備されたものが多く、必ずしも硝酸性窒素等の処理能力が十分でないもの、日常運転管理が適切でない場合がかなり見られる。

このため、現状の処理施設の硝酸性窒素等の低減能力を判断できる推定法の開発及び施設の稼働状況を簡易に判断し適正な運転管理ができる方法を開発した。

事業の内容と成果

  1. 汚水中窒素負荷量推定法の開発

    畜舎汚水に含まれる窒素量の推定法および汚水浄化処理施設の窒素除去能力の評価法が明確にされていなかったことから、ふん尿分離豚舎及びふん尿混合豚舎の汚水を採取し貯留や固液分離した試験データ及び実態調査データを収集し、それらを参考に畜産汚水処理の専門家及びメーカー技術者からなる委員会で評価手法を検討し、豚舎汚水処理施設の浄化能力を評価できるソフトウェアの開発及びその利用マニュアルを作成した。ソフトウェア利用の概要を紹介する「豚舎汚水浄化処理施設窒素除去評価マニュアル」を作成し冊子で配布するとともに、畜産環境技術研究所ホームページで提供した。ソフトウェアは、希望者にCD‐ROMとともに操作法、解説書を配布・登録し、指導・助言を含めた普及を図った。

  2. 硝酸性窒素等高度管理技術の開発普及

    畜産汚水処理施設の水質、すなわちpH、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素、アンモニア性窒素を簡易に測定できる試験紙と硝酸性窒素等を算出できるキットを開発し、それを利用した「畜産農家向けの汚水浄化処理施設窒素対応管理マニュアル」を冊子及びDVDで作成配布し、指導者向けの「畜産汚水浄化施設窒素対応管理マニュアル」を冊子で配布するととともに、両マニュアルを畜産環境技術研究所のホームページで提供した。

Ⅹ 家畜排せつ物堆肥活用による農地地力回復等技術開発普及事業(平成24~26年度)

事業の目的

放射性セシウムにより汚染された農地の除染対策としては、天地返しが推奨されているものの、作物の必要とする栄養分が多く含まれている表層土の天地返しによる土中深くへの鋤き込みにより、地力の低下を招くことが想定されている。一方、地域によっては、肥料の暫定許容値を下回る家畜排せつ物堆肥についても、放射性セシウムに対する不安等から利用が減少しており、畜産農家における堆肥の滞留の解消と耕畜連携阻害の解消を図ることが喫緊の課題となっている。

このため、天地返しした農地の短期間地力回復技術開発、地力回復後の施肥設計技術、セシウム吸着資材等の添加による放射性セシウムの農産物への移行抑制技術等を開発した。

事業の内容と成果

  1. 農地地力回復等の技術開発
    (1)地力回復施肥設計技術の開発実証

    除染を実施した農地の地力回復を行うため、家畜排せつ物堆肥施用と化学肥料のみの施用による地力回復の比較試験を行い、牛ふん堆肥を10a当たり8~12トン施用することにより1~2年で地力が回復すること、回復後には堆肥の施用量を施肥基準量に戻し、化学肥料で養分を補う施肥設計及び堆肥の多量施用による塩基バランスの悪化を補正することで作物栽培ができることを実証した。

    暫定許容値以下の放射性セシウムを含む堆肥の多量施用は、作物や土壌の放射性セシウム濃度に影響しなかった。


    (2)放射性セシウム移行抑制技術の開発実証

    放射性セシウムの土壌から作物への移行を抑制するため、セシウム吸収抑制剤を添加した堆肥を施用すると、無添加の堆肥を施用した場合に比べて、土壌から作物への放射性セシウム移行が低く、移行抑制剤の効果が認められた。セシウム吸収抑制剤を添加した堆肥の肥効は無添加堆肥よりも低かった。


    (3)地力回復等実例集の作成と普及

    これらの事業成果をまとめたパンフレット「家畜排せつ物堆肥を用いた天地返し後の地力回復と農産物への放射性セシウムの移行」及び試験成果を詳細に記載した「家畜排せつ物堆肥活用による農地地力回復等技術開発普及事業成果報告書」を作成し、農家及び関係機関に配布するとともに説明会を開催し、技術の普及を図った。

ⅩⅠ 牛由来堆肥被災地水田施用実証等事業(平成25~26年度)

事業の目的

放射性セシウムに対する不安から、肥料の暫定許容値を下回る家畜排せつ物堆肥の利用、とくに水田での利用が大きく減少しており、畜産農家における堆肥の滞留が深刻な問題となっている。その滞留解消を図ることは、畜産営農継続の面及び地域の耕畜連携阻害の解消のための喫緊の課題となっている。

このため、暫定許容値(400Bq/㎏現物)以下の堆肥を水田に施用した水稲、食用品種及び飼料用品種、の実証栽培における放射性セシウムの動向及び非汚染土壌を用いて汚染堆肥から水稲への放射性セシウムの動態を明らかにした。

事業の内容と成果

  1. 堆肥被災地水田施用実証等事業
    1)被災地水田低汚染堆肥施用の実証栽培等
    (1)実証試験(食用・飼料用品種)

    被災地の水田において、食用品種及び飼料用品種の稲を用いて、無堆肥、非汚染堆肥、低汚染堆肥の3区で栽培した結果、非汚染堆肥、低汚染堆肥区の放射性セシウム濃度は無堆肥区よりも低く、堆肥の施用は放射性セシウムの吸収を低減させることが明らかとなった。


    (2)屋内ポット試験(食用品種)

    ハウス内で非汚染土壌を用いて、非汚染堆肥と放射性セシウムの濃度が異なる堆肥を施用した食用品種のポット栽培において、精玄米の放射性セシウム濃度は検出限界以下であり、汚染堆肥からの放射性セシウム移行はないことが明らかとなった。


    (3)実証栽培結果の普及

    これらの事業成果を取りまとめたパンフレット「暫定許容値(400Bq/ ㎏)以下の牛ふん堆肥の水田施用調査」を作成し、福島県内の農家及び普及指導機関に加えて周辺各県普及指導機関等に配布するとともに、説明会を開催し普及を図った。

ⅩⅡ BMP(最適管理手法)活用畜産悪臭苦情軽減技術開発普及事業(平成26~28年度)

事業の目的

畜産の生産現場と一般住民の居住場所の近接化や国民の環境問段への関心が高まる中、畜産の悪臭苦情が畜産に対する苦情の55%を占めており、畜産経営の存続・発展のためには、悪臭問題の解決が急務となっている。

これまでの悪臭対策は堆肥化施設の臭気防止技術開発など一部の技術にとどまっていることから、今後は個別の技術の開発とともに、各種技術を総合的にBMP(最適管理手法)として体系化することが重要となっている。

このため、以下の技術開発等に取り組んだ。

事業の内容と成果

  1. 畜舎等の臭気の発生抑制及び効果的捕捉技術開発

    畜舎内の臭気成分の運搬原因のダストは、①植物油のミスト噴霧により1/3に低減できること、②畜舎換気により排出される臭気はヤシガラハスクとウッドチップのバイオフィルターで低減できること、③さらに、排出されたダストは畜舎の棟高さ分離れた場所に軒高さ分の遮へい壁を設けることにより、拡散が抑制できることを明らかにした。

    また、臭気低減効果実験装置により、30種の微生物資材の脱臭低減効果について検討したが、効果のある資材はほとんどないことが証明された。

  2. 日本型悪臭防止最適管理手法(BMP)策定・普及

    開発した個別技術を含む各種技術について、米国やカナダ等で行われている悪臭防止のためのBMP(最適管理手法)を参考にしつつ、我が国独自の気象条件等を踏まえて、「日本型悪臭防止管理手法(BMP)の手引き」としてとりまとめ、冊子で配布するとともに、ホームページに掲載した。

ⅩⅢ 硝酸性窒素等規制強化対応高度浄化処理技術開発普及事業(平成27~29年度)

事業の目的

畜産汚水の硝酸性窒素等の基準は、現在暫定基準が適用されているが、規制の強化方向にあり、それに対応し、一般基準に適合した低コストで効率的な排水処理技術の開発が求められていることから、既存施設に増設できる膜処理技術の開発に取り組んだ。

事業の内容と成果

  1. 一般基準対応膜処理技術開発

    畜産汚水の膜処理技術開発のため、平膜と中空糸膜のBODやクリプトスポリジウムや病原性微生物等の除去機能を確認するとともに、飼料や豚毛等の夾雑物による目詰まり等の対策法を検討し畜産汚水処理での膜の使用基準を明らかにした。

    既存施設に外付け型の膜ユニットを設置し、市販の光学センサーを利用した汚濁モニターにより汚泥濃度の適正な管理を行う実証試験を実施し、汚水の性状に合わせた膜ユニットの維持管理方法を開発した。

  2. 膜処理ユニット導入及び管理技術マニュアルの作製・普及啓発

    既存の活性汚泥処理施設に外付け型の膜処理ユニットを導入するための施設改修の手引き「畜環研式膜分離活性汚泥法」及び畜産汚水処理の基本から高度処理までを解説した「畜産汚水の処理技術マニュアル」を冊子で配布するとともにホームページに掲載した。

ⅩⅣ 堆肥利用の困難な馬ふんの燃焼利用調査事業(平成27~29年度)

事業の目的

家畜排せつ物利用については、家畜排せつ物法基本方針で堆肥利用の次に燃焼等エネルギー利用が位置付けられている。

馬ふんについては、堆肥利用が主であるが、原発事故の影響等から地域により耕種農家等での堆肥利用が進まない状況もあることから、燃焼利用の検討のために、未調査である焼却時のダイオキシン等燃焼ガス発生量や燃焼灰成分等を明らかにした。

事業の内容と成果

  1. 馬ふんの燃焼エネルギー等調査

    稲わら混合馬ふん堆肥とウッドシェーブ混合堆肥の燃焼には、溶融や飛散を防止するためそれぞれペレット化が必要であること、ロータリーキルン式燃焼炉で、ダイオキシン類の発生と溶融物の発生を抑制するためには、燃焼炉に二次燃焼部を設ける必要があることを明らかにした。燃焼エネルギー利用の観点からは、ウッドシェーブ混合堆肥が安定しており、排ガスの窒素酸化物、硫黄酸化物、ばいじん濃度、塩化水素濃度は低く、環境への問題はなかった。

  2. 馬ふんの燃焼利用マニュアル作成

    馬ふんを燃焼利用するに当たっての発生ガスや燃焼灰の安全性を確保するための燃焼条件及び発生エネルギーの利用及び燃焼灰の利用等に関する成果を「馬ふん燃焼利用マニュアル」として取りまとめ、冊子で配布するとともにホームページに掲載した。

ⅩⅤ 堆肥施用による被災地の畑地・水田の地力回復等効果の持続性追跡調査事業(平成28~29年度)

事業の目的

東日本大震災被災地の耕種農家において、堆肥施用に対する不安が解消されず未だに堆肥利用が進んでいないことからその促進を図るため、「天地返しを行った畑地への堆肥施用による地力回復及び放射性セシウム移行抑制効果(平成24~26年度)」 及び「被災地水田への堆肥施用による放射性セシウム移行抑制効果(平成26~27年度)」のその後について追跡調査を行い、効果の再確認を行った。

事業の内容と成果

  1. 地力回復等技術効果持続性追跡調査

    除染対策として実施した天地返しにより地力の低下した畑地及び飼料畑に平成24~26年度に暫定許容値以下の堆肥を多量施用することにより地力が回復すること、作物への放射性セシウムの移行抑制がみられることを明らかにしたが、その後の効果の持続性について追跡調査を実施した。平成28、29年の堆肥施用により、地力は維持できること、放射性セシウムは経年的に低下することが明らかになった。また、畑作物ヘの移行抑制効果も維持されることが明らかになった。

    平25~26年に被災地水田への暫定許容値以下の堆肥施用により、水田土壌の放射性セシウムの食用米及び飼料用米への移行が抑制されることを明らかにしたが、その後の調査を平成28,29年に実施し、堆肥施用により水稲及び飼料稲への水田土壌の放射性セシウムの移行が抑制されることを明らかにした。

  2. 地力回復等技術効果持続性追跡調査情報普及

    天地返しした畑地の地力回復と畑作物への放射性セシウム移行抑制効果に係る持続性の調査結果及び水田への堆肥施用による水稲、飼料稲への放射性セシウム移行抑制効果に係る調査結果をとりまとめたパンフレット「家畜排せつ物を用いた天地返し畑地の地力回復及び水田への堆肥施用効果」及び調査報告書「堆肥施用による被災地の畑地・水田の地力回復等効果の持続性追跡調査事業成果報告書」を冊子で配布するとともにホームページに掲載した。

ⅩⅥ 畜産分野における地球温暖化緩和技術の調査普及事業(平成29年度)

事業の目的

畜産分野における温暖化緩和技術の新しい知見を整理した技術レビュー報告書を取りまとめることによって、温暖化緩和策の実施と生産システムの向上の両立を図り、畜産業の健全な振興と温暖化対策の現場での普及・推進に資することを目的とした。

事業の内容と成果

  1. 畜産分野における温暖化緩和技術レビュー

    畜産における温暖化緩和技術について、畜産環境の専門家により、過去にまとめられた調査報告書の再検討改訂をするとともに、新たな情報を整理追加し、さらに温暖化緩和技術を実践している酪農家の調査結果をとりまとめ、「畜産分野における地球温暖化緩和技術レビュー報告書」として冊子で配布するとともにホームページに掲載した。

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